斧節

混ぜるな危険

マントラに関する覚え書き

・『漢字 生い立ちとその背景白川静
・『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
・『大野一雄 稽古の言葉大野一雄著、大野一雄舞踏研究所編
・『子どものからだは蝕まれている。』正木健雄、野口三千三
・『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
・『心をひらく体のレッスン フェルデンクライスの自己開発法』モーシェ・フェルデンクライス
・『身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生齋藤孝
・『野口体操・からだに貞(き)く野口三千三

 ・マントラに関する覚え書き

・『野口体操・ことばに貞(き)く 野口三千三語録』羽鳥操
・『原初生命体としての人間 野口体操の理論野口三千三

坐法に関する覚え書き」に関連して。

 マントラの基本は「OM」(AUM)である。そう、オウム真理教のオウムである。ただし実際の発音は「ム」ではない。低音で「オー」と伸ばしながら胸を震わせ、M音は口を閉じたまま鼻腔を震動させる。

 OMは西に伝わり「アーメン」となり、東に伝わると「阿吽」(あうん)、「南無」(※ナモの音写)に変わったとする俗説がある。M音は人類にとって基本的な音で、赤ん坊が「マンマ」(あるいはママ)と話し始めることからも理解できよう。

 日蓮系の場合、引き題目の「ナーーーーームーーーーー」がOMを示唆している。

 スティーヴン・ミズンが「Hmmmmm」説なるものを唱えている。言語発生の初期段階のコミュニケーションが、Holistic=全体的で、multi-modal=多様式的で、manipulative=操作的で、musical=音楽的で、mimestic=ミメシス的だったと考察する(『歌うネアンデルタール 音楽と言語から見るヒトの進化』)。最初に読んだ時、私はこれをハミング音と勘違いした。先月再読して自分の間違いを確かめた。しかしだな、「言葉が歌から始まった」と想像するミズンや岡ノ谷一夫〈おかのや・かずお〉の学説を思えば、ハミングから言葉が生まれたと考えることも、それほど見当違いではあるまい。

 そしてハミング(鼻歌)には驚くべき効果がある。

 スウェーデンの首都ストックホルムにあるカロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学病院)の麻酔集中治療部門、Eddie Weitzberg氏らによって米国胸部学会(ATS)の学術誌American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(AJRCCM)誌7月15日号に掲載された研究論文によると、健常人10人を対象とした実験で、ハミング下では通常の鼻呼吸下と比べ、鼻腔内の一酸化窒素濃度が15倍に上昇したという。(口呼吸では一酸化窒素は産生も遊離もされない)。


鼻歌 - Wikipedia

 一酸化窒素(NO)には血圧をコントロールし、血流を調整し、血管内の傷を修復し弾力性を保つ働きがある(『「血管を鍛える」と超健康になる! 血液の流れがよくなり細胞まで元気』池谷敏郎、『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ今井一彰)。

 そもそも、「humming」(ハミング)に「OM」音が垣間見える。そして会話のアクセントとなる日本語の相槌「フム」「ウム」にもまた「OM」音が覗(のぞ)いている。

「お(御)」という接頭語は、尊敬・丁寧・謙譲・親愛の意を表わす語として極めて広く用いられ、今や、「お絵かき、おパン」などの用法さえ現われてきた。「本当」が表情音のホントになってしまったのと似ている。
 和語の「お(御)」は、「おん(御)」の約である。もとをたどれば、最初の形は「おほみ(大御〈おほみ〉)」で、それが「おほむ・おほん」となり、「おむ・おん」となり、「お」となったもの。したがって、漢字を当てれば「大(おほ)」とすべきコトバである。「み(御)」は「霊」(み)や「身」(み)に通ずるコトバであることは別の所で書いた。それでは、「大」に替わって「お」に当てられた「御」とはどんな文字なのであろうか。(中略)
「御」は、神を拝跪して奉仕する意から、高貴の人のそばに仕える意となり、神や高貴の人を守ることから禦(ギョ)の意となり、高貴の人の身のまわりの世話をすることから馬を馭(ギョ)する意も派生し、神や高貴の人に使えることから尊敬の意の接頭語となり、その用法が日本に入って「お・おん・み」に当てられたのである。


【『野口体操・おもさに貞(き)く』野口三千三〈のぐち・みちぞう〉(柏樹社、1979年/春秋社、2002年)】

 天皇陛下が民を思う心を「大御心」(おおみこころ)という。このテキストにもはっきりと「おむ」と出てきて、私は腰を抜かしそうになった。

 日本語で感嘆した時に出てくる音は「おお」、「ああ」(嗚呼)である。OMをhmmmmmmと唱えると、「おお」「ああ」が身から抜け出てゆくのに対して、M音が我が身で受け止める感覚がつかめる。

 成瀬雅春の「倍音声明」も参考になる(『心身を浄化する瞑想「倍音声明」CDブック 声を出すと深い瞑想が簡単にできる』)。「ウー」→「オー」→「アー」→「エー」→「イー」→「ムー」(低音のハミング)を繰り返す。「ムー」は先ほど書いた通り、口を開けない方がよい。

アイ・アム(I Am)に関する覚え書き」に続く。