・『歴史の起源と目標』カール・ヤスパース
・『意識する心 脳と精神の根本理論を求めて』デイヴィッド・J・チャーマーズ
・『死と狂気 死者の発見』渡辺哲夫
・『新版 分裂病と人類』中井久夫
・自由意思と予定説
・歴史が書かれる以前の人類に「意識」はなかった
・軸の時代と二乗と菩薩界
・『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
・『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン
・『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
・『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン
・『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
・『2か月で人生が変わる 右脳革命』ネドじゅん
私の仮説に関連して検討するにあたり、確実な翻訳が行なえる言葉で書かれた人類史上最初の著作は『イーリアス』だ。現代の研究では、血と汗と涙に彩られたこの復讐譚は、吟じ手(アオイドス)と呼ばれる吟遊詩人の伝統によって創り上げられたものと考えられ、その時期は、近年発見されたヒッタイト語の銘板から、作品の中に記された出来事が起こったと推定できる紀元前1230年頃から、作品が文字で記された紀元前900年頃ないし850年頃までの間ではないかとされている。本章では、この叙事詩をきわめて重要な心理学上の記録として取り上げることにする。そして、ここで投げかけるべき問いは『イーリアス』における心とは何か、だ。
答えは、とても平静ではいられないほど興味をかき立てられるものだ。おしなべて、『イーリアス』には意識というものがない。
【『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2005年/原書、1976年)】
「悟りのヒント その四」関連記事。中井久夫著『分裂病と人類』は重量級だが、こちらは超弩(ど)級である。中井は狩猟採集社会にはS親和性(統合失調症親和性)があり、農耕社会には強迫症親和性があるとした。因みに、狩猟民族・農耕民族という概念は既に否定されているので間違えないように。「S」はSchizophrenia(スキゾフレニア)の略でドイツ語。
ジュリアン・ジェインズは人類に意識が芽生えたのは3000年前だと推定している。それ以前は、右脳からの命令(神の声、幻聴)に左脳が従うメカニズムで動いており、これを「二分心」と名づけた。
ジェインズの主張は学界を揺るがした。が、支持されるには至らなかった。具体的な神経科学的・生物学的証拠がないためだ。とはいうものの、「二分心ではなかった」という証拠もない。
一つヒントがある。昔の王や武将は「夢のお告げ」を重んじた。これを「右脳からの命令」と考えることも可能だ。キリスト教が世界宗教に発展したのはイエスの偉大さではなく、パウロが教義化したことと、ローマ帝国のコンスタンティヌス1世が公認したことに依(よ)る。コンスタンティヌスは「夢のお告げ」によって十字架を軍旗に記し、ミルウィウス橋の戦い(312年)に勝利してローマ帝国統一への大いなる前進を遂げた(『「私たちの世界」がキリスト教になったとき コンスタンティヌスという男』ポール・ヴェーヌ)。
『イーリアス』(紀元前8世紀半ば)では自己意識的な葛藤や決断が見られないが、『オデュッセイア』(『イーリアス』の続編)では自己意識が描かれるようになる。
本書から着想を得て、トール・ノーレットランダーシュは『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』(原書、1991年)を著した。左脳の共振は学問の新たな地平を開いた。
尚、本書の後で、E・H・カーや岡崎勝世、岡田英弘などの世界史に進めば、読書の景色が完全に変わる。

