本と音楽がなければ私の人生はかなり色褪せたものになる。ほぼ灰色といってもよい。10代半ばから洋楽を聴き始め、二十歳(はたち)前後でワールドミュージックに開眼し、20代半ばでアジアの音楽に辿り着いた。クラシックはバッハを少し聴く程度だ。中村とうようが「ポピュラーミュージックの基礎はアフリカのリズムとアジアの謡(うたい)にある」と断言したのが少しわかるようにはなった。
ダニー・ハサウェイの「A Song For You」を聴いた時の衝撃が忘れられない(レオン・ラッセルのカバー)。しかもLPレコードを購入してライヴ版だと知った。エンディングの「You」が哀切を奏でる笛の音(ね)のように伸びる。更に後でその美声の持ち主が飛び降り自殺していたことを知り、二重の衝撃を受けた。
2PACは特に好きなわけではないのだが、この曲だけは別格だ。歌詞にはギャングにありがちなどうしようもない低劣な人生が綴られている。「勝手にしろよ」と言いたくなるほど、どうでもいい内容だ。にもかかわらず、この曲の軽やかさと、マントラのように繰り返される「Life goes on」の女性コーラスが信じ難いほど胸に染み入る。一日中繰り返し聴いたことがあるほど好きな曲だ。2PACは友人であったマイク・タイソンの試合を見に行った帰り道で殺害された。25歳没。
ダニー・ハサウェイの曲も同様で、じめじめした湿度の中で生きる日本人には到底及ばぬ「軽さ」があるのだ。そこに「アフリカの乾燥した空気」を感じ取ることは容易だろう。
きっと、二人の魂も空の高い位置で軽やかに舞っているに違いない。