斧節

混ぜるな危険

トレイルとは「歩くための道」

・『病気の9割は歩くだけで治る! 歩行が人生を変える29の理由 簡単、無料で医者いらず』長尾和宏
・『病気の9割は歩くだけで治る!PART2 体と心の病に効く最強の治療法』長尾和宏
・『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』能勢博
・『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
・『アルツハイマー病は治る 早期から始める認知症治療』ミヒャエル・ネールス
・『一流の頭脳』アンダース・ハンセン
・『ウォークス 歩くことの精神史レベッカ・ソルニット

 ・トレイルとは「歩くための道」

・『ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』マイケル・クローリー
・『脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか 生き物の「動き」と「形」の40億年』マット・ウィルキンソン
・『ナンバ走り 古武術の動きを実践する』矢野龍彦、金田伸夫、織田淳太郎
・『本当のナンバ 常歩(なみあし)』木寺英史

 だが、自分の成長を感じながらも、謙虚な気持ちも忘れることはできなかった。3200キロ歩いてきたことはたしかだが、それはとても自分ひとりでやり遂げられれることではなかった。そのルートは多くのトレイルビルダーやハイカーが通過することによって形成されたものだった。
 トレイルを歩きながらわたしは、ある考えと、それと相反する考えを同時に思い描くことがよくあった。そのきっかけはトレイルだった。トレイルは対立を曖昧にする。悟りを開いたあとの最初の説法で、ブッダは弟子たちに苦と楽のあいだの「中道」を歩めと教えた。のちに中道のイメージは拡張され、大乗仏教ではあらゆる二元性の解消の象徴になる。ここで「道」という字が使われているのは適切な選択だ。なぜなら、それはうまく二項対立を曖昧にしてくれるものだからだ。道は現生自然と文明、導く者と従う者、自己と他者、古いものと新しいもの、自然と人工の区別を曖昧にする。そうした区別はむなしいものだ。トレイルにとって究極的に意味のある二項対立は、使われるか使われないか、つまり社会的な意味を持ちつづけるか、それとも徐々に無秩序に向かっていき、やがて解体するか、ということしかない。


【『トレイルズ 「道」を歩くことの哲学』ロバート・ムーア:岩崎晋也〈いわさき・しんや〉訳(エイアンドエフ、2018年)】

 示唆に富んだ文章が次々と現れるのは、著者が歩くたびに何かを発見しているためか。「二元性の解消」「二項対立を曖昧」という表現は実に巧みな中道の解説である。

 トレイルとは「森林や原野、里山などにある『歩くための道』のこと」(環境省_みちのく潮風トレイル)。道は往来の痕跡だ。人々が移動するのには理由と目的がある。

 主要幹線道路が動脈だとすれば、トレイルは毛細血管である。完全には踏み固められていない中途半端さに魅力がある。湧き水や沢のような清新さが漂う。

 ただし日本の場合、国土の7割が山間部ということもあって、不用意にトレールを辿ると遭難する危険性がある。私自身、高尾山周辺で一度危ない目に遭ったことがある。