斧節

混ぜるな危険

標準化されたシステム

・『まず、ルールを破れ すぐれたマネジャーはここが違う』ギャラップ
・『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ

 ・標準化されたシステム

 われわれは今、消費者に選択権がある「黄金の時代」に生きている。しかし学校や職場など、人生に関わる重大な「選択」ということになると、事態はほとんど変わっていない。
 それは、【標準化されたシステムがあなたから大きな意味をもつ選択を取り上げ、組織の手に渡してしまった】からだ。結局のところ、これが標準化を推進する大前提のひとつなのだ。つまり、目的はシステムの効率を上げること。その手段は、すべての決定権を労働者と学生から奪い、マネージャーと学校管理者に委ねることという前提だ。


【『Dark Horse(ダークホース) 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代』トッド・ローズ、オギ・オーガス: 大浦千鶴子〈おおうら・ちづこ〉訳:伊藤羊一〈いとう・よういち〉解説(三笠書房、2021年/原書、2018年)】

眼に見えぬ祭壇を作る」の続きを。

「標準化されたシステム」とは様々な制度を意味する。学歴、資格試験など。例えば医師になるためには、医学部に入学し6年間の学部課程を終了し、医師国家試験に合格し、それから2年間にわたって研修医として臨床実習を行う。私は予(かね)てから思っているのだが、外科医より器用な裁縫のスペシャリストはいるだろうし、歯科医より巧みな彫刻師や大工も存在することだろう。あるいは野菜の薬効に詳しい農家なども考えられる。

 そうした人々が医師になれずに、医師の家に生まれた子が医師になるのは明らかに社会の損失である。医師になれるなれないは経済的な理由だろう。

「好きなことだけで生きる人」との書籍タイトルが軽いが、これは“適性”を表している。トッド・ローズはハーバード教育大学院研究員で、オギ・オーガス神経科学の専門家で立派な専門書である。二人で立ち上げたのが「ダークホース・プロジェクト」だ。

 インターネットのデータ解析が格段に進歩し、企業の経済ターゲットは【個人】に向けられている。amazonで買い物をすればするほど、You Tubeで視聴すればするほど、「おすすめ」の精度は上がる。

 ところが、「標準化されたシステム」の中で生きることは「個性や適性を殺す」ことにつながる場合が多い。報酬のために「好き」を犠牲にしているのだ。一昔前と比べると労働内容は明らかに過密となっていて、古きよき時代の「煙草屋のおばあちゃん」(井上順)と現在のコンビニ店員を比べれば一目瞭然だ。バブル崩壊後、派遣労働者が急増したため、時間単位の労働管理が行われるようになった背景もあるのだろう。

 それゆえに、エリートほど「燃え尽きる」傾向が強い。彼らが報酬のために犠牲にしているものは我々の想像よりも遥かに大きい。幼い頃から学業に勤(いそ)しみ、塾に通い、友達と遊んだり、自由に好きなことをする時間などなかったことだろう。特にバブル景気崩壊後、人生の価値はカネに換算されるような風潮が強くなった。

 ダークホース(穴馬)が成功する秘訣は「小さなモチベーション」を持ち続けることだという。これこそが、「好き」の根拠だ。

 あらゆる情報が脳を束縛するが、取り分け宗教の縛りはきつい。創価学会員とエホバの証人が理解し合うことは困難だ。キリスト教イスラム教が和解することもあり得ないし、天動説と地動説が歩み寄ることもない。

 私が懸念するのは特定の信仰を持ったがために「失われた選択肢」である。それは信仰から自由になるまで自覚し得ない。また一方で、創価学会にいるおかげで「小さなモチベーションを維持できる人」もいることだろう。ま、維持できるうちは頑張ればいい。人生は自由だ。自分の好きに生きるのが一番後悔が少ない。